今はまだ人生を語らず / 吉田拓郎

ぼくにはこのアルバムの記憶とともに語る歴史がありません。歴史がないという言い方はちょっとおかしいのですが、でもペニーレインなんて見たことがないですし、こんなに熱い音楽が生まれた時代の空気も肌で感じたことはありません。リアルタイムでこのアルバムを聴くことが出来ていたら、というのは言っても仕方がないことなのですが…。

『今はまだ人生を語らず』は吉田拓郎が1974年に発表したアルバムです。シャウト気味に歌うロックナンバーからフォーク調の曲まで、サウンドの幅が大いに広がったアルバムでもありますが、そこから見えてくるのは彼のメロディーメイカーとしての才能。フォーク、ロック、歌謡曲、演歌など様々な音楽を取り込み昇華したメロディに加えて、若さゆえの焦燥感と成熟した大人が抱くようになる郷愁とのバランスがよいこともあってか、聴かれる時代や年齢層を問わない普遍的なポップスに仕上がっているのはすごいの一言。

熱くシャウトする「人生を語らず」や「結婚しようよ」のようなフォーク調ポップス「戻ってきた恋人」(文句なしに素敵な曲です)、森進一が歌った「襟裳岬」のセルフカバーなど、どの曲も素晴らしい出来。そんな中、特に人気が高い曲の一つに「ペニーレインでバーボン」があります。表参道に実際に存在したお店「ペニーレイン」を題材に心のうちをストレートに歌った歌詞や、焦心をうまく表現した独特の字余り的な歌唱スタイル、疾走感のあるフォークロック調のメロディなどがうまく融け合った名曲です。

ちなみにこのアルバムは、一度CD化された後すぐに廃盤となり、現在までそのままです。「ペニーレインでバーボン」に不適切な言葉が含まれているから、レコード会社が自主規制をしているのだというのが一般的な理由とされているようですが、実際のところはよく知りません。ただ、「THE BEST PENNY LANE」と題されたベスト盤にすら「ペニーレインでバーボン」は収録されていないので、この曲に問題がある可能性は高いのだと思います。そのことについていろいろ考えるところもあるのですが、とりあえずそれは置いておいて、ただただ早い日のCD化を希望しています。(オークションだと希少なCDが2万円前後で取引という、ありえない状況なので)

※すごく売れたアルバムなので、レコードは安く売っていますけど。