蜘蛛巣城 / 黒澤明監督

蜘蛛巣城 [DVD]

蜘蛛巣城 [DVD]

レンタルショップに置いていたので、久々に見てみようかと借りてきました。『マクベス』に関する映画は、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)からクロード・ダンナ、蜷川幸雄まで十数本は見ているのですが、一番印象に残っているのがこの『蜘蛛巣城』です。第三エロチカの舞台も良かったですが、あれはひどく前衛的というか何というか。

蜘蛛巣城』はシェイクスピアが書いた『マクベス』を、舞台を中世ヨーロッパから日本の戦国時代に移し替えたもの。『コールド・ブラッド〜殺しの紋章』という映画も同じような着想で撮影されたものでしたが(こちらの時代背景は現代)。

この作品の面白いところは、映画ならではの表現手法。シェイクスピアの作品は舞台で演じられることを前提として書かれているので、台詞も説明口調で時として冗長にも感じられます。(冗長だと感じさせないために、印象的な台詞や対句、ダブルミーニング、隠喩などの言葉遊びがふんだんに盛り込まれているのですが…)それに対して、『蜘蛛巣城』は言葉には重きを置かず(日本語の不利な点を逆手に取った感じ)、映像で魅せています。陰影を効果的に使って幻想的な雰囲気を演出し、役者の細かな表情や動作で心の動きを表現するというのは、舞台ではまず不可能な演出。雨のように降りそそぐ矢に圧倒されるラストシーンがとかく持てはやされがちですが、能楽的な音楽や独特の長い間、躍動感のある役者の演技、光と影のコントラストなどから人間の内面世界を浮かび上がらせた辺りが、この作品の魅力であるようにも思えます。特に光と影を引き立たせる霧の存在がポイントというか。オリジナルのマクベスには「きれいはきたない きたないはきれい」という印象的な台詞があるのですが、それを視覚的に感じさせるのが(たぶん)光と影であり、最初と最後のシーンが霧に霞む荒野というのも示唆に富んでいて面白いですね。

あと、日本語版でも字幕がないと聞き取れない部分があるぐらい聞き取りづらいです。ただ、シェイクスピアの作品って基本的にそういうものというか、ストーリーを知っていることを前提として楽しむようなところがあるので、訳が分からないという人はとりあえず原作の『マクベス』を読み込んでみるといいのかもしれません。