灰田勝彦 / 東京の屋根の下

「東京の屋根の下に住む 若い僕らは幸せ者」
「何にもなくても良い 口笛吹いてゆこうよ」
「希望の街 憧れの都 二人の夢の東京」

なんて粋なのでしょうねぇ。

灰田勝彦が「東京の屋根の下」を歌ってヒットさせたのは1948年のこと。敗戦からまだ3年。甘やかな灰田勝彦の歌声に、優しい服部良一のメロディー、佐伯孝夫の素敵な詞が、どれだけ当時の人たちを勇気づけたかは想像に難くありません。

灰田勝彦が歌い、夢みた「東京」は、今では遠く手の届かないものになってしまったように思えます。かつて人はその先に美しい「東京」を見てこの曲を愛しましたが、今の僕らは後ろにある「東京」を振り返りながらこの「東京の屋根の下」を聴くわけで、そこにはどうしても感傷が入り込んでしまいます。謙虚な激励にあふれたこの曲も、ちょっと寂しくきこえるのは少し悲しいですが、その寂しさを振り払うだけの力や普遍性を備えた歌です。もうたぶんこんなに素敵な歌は出てこないですよ、というとちょっと傲慢にきこえるでしょうか。