フォーク・ジャンボリー[青山篇]

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斉藤哲夫中川五郎、よしだよしこ、あがた森魚、シバ、三上寛の6人による、フォークコンサートの録音盤。軽い気持ちで買ってみたのですが、あまりにも胸を打たれる内容に、このライブを観にいかなかったことを後悔しました。こんなに素敵な音楽をフォークファンだけのものにしておいていいのだろうか(いや、良くない)、と反語の例文のようなコメントをしてしまうぐらい、心に届く音楽です。たとえばボブ・ディランがフォークという枠を飛び越えて広く愛されたように、これらの歌が愛されてもおかしくないと思うのですが、しかし時代は限られた人たちにしか彼らの歌を届けない…。なんて、まあその手の愚痴はぼく自身が嫌っているものなのでどうでも良くて、ただ少しでも多くの人の耳に届けばいいなあとちょっと思ってみたのでした。

1972年(だったかな)に発売された『君は英雄なんかじゃない』に収められていた「悩み多き者よ」は悟りきったような歌を聴かせる斉藤哲夫さんの老成を象徴する名曲ですが、現在のライブでの彼の歌には変な意味での達観が一切なくて、まずそこに驚きました。今の彼の方が、「伝える」ということに対していっそう真摯にみえるのです。それが単純に声や癖の経年変化によるものなのか、ライブという状況によるものなのか、あるいは心境の変化によるものなのかはぼくには分かりかねます。しかし、それはずっと好ましい変化です。

中川五郎さんの2曲は購入当初のお目当ての曲であり、またアルバムの中で特に気に入った曲でもあります。「理想と現実」は頭脳警察PANTAさんの曲に、中川さんが詞を付けたもの。憲法第九条をテーマにした曲で、今まで5、6回ライブに行って一度も聴いたことがなかったのでずっと聴いてみたかったのですが、ようやく聴くことができました。12弦ギターの軽やかな響きに美しいフォークのメロディー。これは本当に名曲だと思います。ちなみに歌詞は中川さんの日記にあります。もう一つの「ビッグ・スカイ」は最近のライブではお馴染みの、ルー・リードの日本語カバー。爽やかな12弦ギターのカッティングに郷愁を誘うハーモニカ、何歳になっても青さの残るヴォーカルが素晴らしい曲。これをライブで聴く感動と興奮はなかなか言葉ではうまく伝えられないのですが、これを聴けば少しは伝わるかもしれません。

「山羊のミルクは獣くさいオイラの願いは照れくさい」を歌うのはあがた森魚さん。あがたさんは『乙女の儚夢』と大瀧詠一さんと一緒にやったサントラ『僕は天使ぢゃないよ』しか聴いていないのですが、それと比べるとずっと聴きやすいアシッドフォークという印象です。

シバさんは3曲。どれも本当に素晴らしいフォーク・ブルーズ。歌が語り、ギターが語り、一瞬の音の間さえも魂のようなものを語りかけてくる、素晴らしいフォーク・ブルース。言葉にすると仰々しくなってしまうのですが、でもそれだけのことを言わせるだけの凄みがあります。

三上寛さんはさすがです。凄い。それ以上言いようがないです。

今回いちばんの発見は、よしだよしこさん(→ホームページ)。恥ずかしながらよしださんのことは今まで知りませんでした。エレック再発の関係でピピ&コットをかろうじて知っていたぐらいですが、この瑞々しさはいったい。日本には金延幸子さんという素晴らしい女性SSWがいますが、感覚的には彼女に近いものがあります(ちょっと違いますが)。どこか英国的な抒情のある透明度の高いメロディーに歌声。「道ばたでおぼえた唄」(よしださんのHPでも試聴できます)は、10年に一つの名曲と言ってしまってもいいのではないかとまで思います。The Bandのカバー「The Night They Drove Old Dixie Down」でも素敵な歌を披露してくれます。

最後は全員で高田渡さんの「生活の柄」を。これは感慨深い。

ということで早くも今年のベストアルバムに決まりそうなぐらい気に入っています。いちばん上のリンク先から全曲試聴&購入できますので、気になる方はぜひどうぞ。来年もやる予定らしいので、(東京に残っていたらですが)次は必ず行きたいと思います。