Bob Dylan / Self Portrait

Self Portrait

Self Portrait

あるミュージシャンの最高傑作(と一般に言われるもの)は、当たり前の話ですが必ずしもぼくにとって最高に好きなアルバムではなく、もしかすると好きですらない可能性もあります。ボブ・ディランの最高傑作はどのアルバムだとか挙げるのもなんだか馬鹿げている(選べない)気がするのですが、主観を大いにまじえて言えば『Blood on the Tracks』は比較的最高傑作として挙げる人も多く、そしてそれはぼくの実感とも一致しているように思えます。つまり、『Blood on the Tracks』はぼくのお気に入りである、と。

それでも不思議なことに、たいしてお気に入りというわけでもないのにことあるごとに取り出して聴きたくなるアルバムというのもあって、ディランの『Self Portrait』はそういう類のアルバムにあたります。へろへろで艶やかな歌声とデビュー以来のトレードマークである老人のようなしゃがれ声、あるいはスタジオ録音とライブ録音、またあるいはスタンダードから最新までのポップス、フォーク、ブルースなどが入り乱れ、お世辞にもまとまりがあるとは言いづらいのですが、それがかえってくせになるのかもしれません。

Gordon Lightfootが書いた「Early Morning Rain」はPP&Mのカバーもある美しいフォークで、ディランの素朴な歌も味があります。The Everly Brothersが歌ってヒットさせ、数多のカバーを生んだ「Let It Be Me」の柔らかいカバーもいいのですが、スタンダードを取り上げたものとして個人的に気に入っているのが「Blue Moon」。有名な曲ですが、エルヴィス並みに甘い歌声を聴かせるディランがなかなか素敵です。「It Hurts To Me」のようなブルース作品も、じわじわとしみてきます。