Taxi Driver

久々に「タクシー・ドライバー」を見返しました。一度目見たときには複雑・不条理(でもないか)な全体のストーリーに目が行きましたが、二回目の今回はどちらかというとカメラワークや一コマ一コマのシーンに気を奪われました。

幼い娼婦を救いたいという正義感を持つ一方で、黒人などの汚い人間には激しい憎悪を抱くトラヴィスロバート・デ・ニーロ)。彼が黒人と遭遇する場面ではスローモーション他様々な撮影技法を駆使して心の中に潜む激しい憎悪を表現し、同じく売春の仲介人とのシーンでも巧みなカメラワークでトラヴィスの心理を描き出します。

さらに印象的なのがトラヴィスの目。様々な角度から、時にはミラー越しに、頻繁に目元が映し出されるのですが、その目の奥に潜むものを追いかけるだけでもトラヴィスの心理を追うことが出来ます。銃を手にしてそれを窓の外に向け、狙いを付けるトラヴィス。銃を構えてテレビをじっと見つめるトラヴィス。その先にはいつも幸せそうなカップルや黒人がいて、不穏な空気が漂います(恋人に振られたトラヴィス、黒人嫌いなトラヴィスという伏線あり)。次第に狂気の色を深めていく展開が圧巻。最後のシーンではトラヴィスの目から狂気の色が消えたようにも、あるいはまだ消えていないようにも読めて、どう解釈すればよいのか悩むところですね。

あと、目元もそうですが、全体的な表情の変化にもトラヴィスの狂気が表現されています。銃を手にした途端にきりっと一変する表情とか、今の生活はおかしいぞと幼い娼婦に倫理を説くトラヴィスが彼女に「おかしいのはあなたと私どっち」と軽い口調で言われて見せる複雑な表情とか。この辺りはデ・ニーロの名演。

細かい演出も抜群で、前半部分で売春の仲介人から手に入れた汚い金(しわくちゃのお札)を後半部分で汚い(とトラヴィスが憎んでいるであろう)人間に突き出したりとか、とにかくどのシーンも目が離せません。字幕もちょっと上品すぎるきらいはありましたが、全体的にはそう悪くはなかった気がします。

以前見たのはたぶん完全版だったので(ポルノ映画を見に行くシーンでモザイクがかかっているシーンがありましたが、ぼくが見た映像ではモザイクすらかかっていなくて、その時は受講していた講義の関係で見たのですが、そういうこともあって鑑賞後の討論ではこの映画の女子学生からの評判は散々だった記憶があります)、今回はテレビということもあって短めだったため多少テンポが早く、リズムが悪い感じがしました。気のせいかもしれませんが。

恋愛と失恋、差別、狂気、生の空虚さ、力と正義、貧困と犯罪、都会の闇と孤独、ヴェトナムなどなど…。とにかくいろいろな要素が含まれているので混乱してわけが分からなくなってしまいますが、しかしよく見ると完全な混沌にあるのではなくて、一つ一つがそれなりの必然性を持って映画を構成しています。世間での高評価も納得の素晴らしい映画だと思います。デ・ニーロの演技だけではなく、スコセッシ監督の才能も忘れてはいけないですね。