流れとよどみ / 大森荘蔵

流れとよどみ―哲学断章

流れとよどみ―哲学断章

日本の哲学者で好んで良く著作を読んでいるのは永井均さんですが、でもそれは純粋な哲学的興味からそうしているわけではなくて、どちらかというと彼の文章のリズムが好きだからそのリズムを楽しんでいると言った方が良いのかもしれません。たとえば「私・今・そして神 開闢の哲学 (講談社現代新書)」の序文を読んだときに、音楽の話について一切触れられていないのに、ぼくは音楽を聴いているような心地よさを感じます。ただし、他の人に同じように感じてもらえるかというとちょっと自信がありません。別に取り立てて美しいわけでも詩的なわけでもないと思うので、これは文章のリズムがぼくに合っているということかなと感じたりします。

大森荘蔵さんは永井さんより一世代ほど前に活躍された方で、すでに故人となっています。哲学者としては平易な文章を書かれる方ですが(この作品の一部は朝日ジャーナルに連載されていたので特にそう)、永井さんの場合のように文体そのものに惹かれることはあまりありません。ただ、身近な物事への疑問を自分の頭で考え抜くというスタイルは比較的共通するところで、考える楽しさを伝えてくれます。決まり切った散歩コースを変えてみると新しい発見があったりするように、思考世界の小さな冒険からは新しい世界が見えて来たりします。そんなきっかけを与えてくれるのがこの「流れとよどみ」だと思います。

※前に大学の図書館で借りて読んでいたのですが、昨日閉店間際の古本屋で見つけたので思わず買ってきてしまいました。