くるり / NIKKI

NIKKI(初回限定盤DVD付)

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やりたいことを思う存分やれる環境というのは果たして良いものだろうか、とぼんやりと考えていました。それにははっきりとした答えはなくて、我が道を行って結果を出すミュージシャンもいれば、他人との関係の中で優れたものを生み出していくミュージシャンもいると思います。

最近のくるりの作品を聴いていて思うのは、岸田繁という人は他者との関係の中でより良いものを作り上げていくタイプではないかということです。時には衝突したりしながら素晴らしいものを作っていくというのはビートルズのポールやジョンもそうで、彼らはやがて対立を深めて別々の道を、自分のやりたいことをやれる道を歩んでいきましたが、対立が存在しなくなった彼らのソロ作品は、ビートルズ時代のものと比べるとどうしても秀作、佳作の域を出ないものが多いです。聴き手の側からすると、この手のミュージシャンは人とぶつかり合いながら良いものを作り上げていくので、好き放題やられるのもちょっと困りものだなあとなります。

そして今のくるりの音楽を聴いていると、ソロになったジョンやポールの音楽を聴いているのと同様の満たされなさが感じられます*1。個々のミュージシャンの我がぶつかり合うような感じも薄く、ただ岸田さんの求める音楽がそのまま形になっていったような、そんな曲で占められたアルバム。くるりとは言っても今はほとんど彼のプロジェクトのようで、ぶつかり合うものが存在しないだけにスマートさばかりが際だち、何だか耳から耳へと抜けていってしまう。

ジョンやポールを引き合いに出したようにアルバムの出来自体は悪くないのです。ビートルズストーンズザ・フーなどのUKロックを意識したようなサウンドも、豊かな叙情性も。それでもなお、くるりの素晴らしさ、岸田繁というミュージシャンの素晴らしさをなまじ知っているばかりに、満たされないものがより大きく感じられてしまいます。第一印象は悪くなかったにもかかわらず繰り返し聴く気にならないのはそのあたりの事情もあるのですが…。

*1:ジョンやポールのソロ活動を軽視しているというのではないですが…。