中川五郎 / 終り はじまる

終わり・はじまる

終わり・はじまる

結局今年いちばん聴いたのはこのアルバムでした。たぶん昨年もそう。今年ライブを観にいったのも中川さんと中村まりさんだけ。まあ、それは最近出不精で保守的になってきたというのもありますが。ちなみに新年最初のライブも中川五郎さんのライブになる予定です。

中川五郎さんのデビューは六文銭とのカップリングアルバム『六文銭/中川五郎』ですが、単独でのアルバムはこの『終り はじまる』が最初です。昔のヨーロッパ映画のスコアのように哀愁漂う演奏が静かに、しかし強烈な印象を残してゆく「古いヨーロッパ」から、内省の度合いを深めた弾き語り「終る」に至るこのアルバムは、フォークの開放性・メッセージ性とSSWの内向・密閉性という対立する要素が並存する、稀なアルバムです。早川義夫木田高介、つのだひろ、谷野ひとしというジャックスの面々を従えた「殺し屋のブルース」は「San Fransisco Bay Blues」を下敷きにしたように痛烈なブルース。アイルランド民謡をベースに、主婦の悲哀を絶妙な視点で切り取る歌詞を付けた「主婦のブルース」は高石ともやさんが取り上げて有名になった曲。「いつのまにか」と「腰までどろまみれ」はそれぞれ静と動という対照的な色を持つ反戦歌。当時20歳の中川さんの歌はお世辞にもうまいとは言えませんが、しかしこのアルバムにおける彼の歌声ほど説得力のある歌をぼくは知りません。