なのるなもない / Melhentrips

メルヘントリップス

メルヘントリップス

降神のメンバーのソロプロジェクト。ヒップホップを敬遠していたころというのは、ヒップホップの世界との関わり方が苦手に感じていて、これは別にリリックの問題に限らずサウンドの醸し出すイメージも含めてのことですが、無駄に攻撃的だったり(攻撃的であることそのものを否定するわけではないのです)、あるいは仲間意識が妙に陳腐だったりして、個人的にはついていけないかなと考えていたのです。だから変な攻撃性も仲間意識もない、あるいはあっても面白さの中にそれが隠されているRip Slyme(まあヒップホップと言うと怒る人がいるかもしれないので、その場合はヒップホップ歌謡とかポップスとかに読み替えてくれれば…)をかろうじて聴くぐらいでした。それがShing02降神をきっかけに、ヒップホップも探せば面白いものがあるなあと思ったのが一昨年から昨年にかけてのこと。

このアルバムの面白いところは、タイトルもそれを暗示していますが、世界との関わりが縮小して、より内的世界に焦点があてられているところです。内面的な世界というのは、怒りとか喜びとか悲しみとか、一つ一つを取り出すと単調でつまらないものになってしまいますが、実際にはそうした怒りとか喜びとかいうものは合わさって混沌としていてとらえどころがなくて、だから精神(Psyche)を知覚化した(Delic)「サイケデリック」という言葉にはとらえどころのないイメージがあります。

その「サイケデリック」を魅力的と感じる人間にとって、なのるなもないがこのアルバムで実現している人間の内面の表現は、やはり魅力的にうつるのではないかと思います。ゆらゆらと漂うようなトラックにあての見えないラップがのる様は見事としか言いようがなくて、黙想をしているときに感じるような快感を、このアルバムを聴いていると感じることが出来ます。