王様 / カブトムシ外伝

カブトムシ外伝

カブトムシ外伝

誰が過小評価されているかって、それは絶対に王様だよなあと思います。王様は本当に素晴らしい。ビーチボーイズも(浜っ子伝説)レッド・ツェッペリンも(鉛の飛行船伝説)ディープ・パープルも(深紫伝説)グランド・ファンク・レイルロードも(めっちゃ陽気な鉄道伝説)、ぼくはロックの王道という王道はほとんど王様に教わり、さらには王様の直訳カバーの後にオリジナルを聴いても、直訳カバーがちっとも色褪せないという凄さまで実感したのでした。それもこれも確かな演奏力、アレンジに裏打ちされているからこそです。たとえば「浜っ子伝説」には山下達郎が参加しているという噂があって、真偽のほどは知りませんが、まあそれぐらい素晴らしい出来だったのでした。さらには王様を崇拝するあまり学部こそ違えど王様と同じ大学に入ってしまったという…ってそれはまあ冗談ですが。

『カブトムシ外伝』は王様によるビートルズの直訳カバー集。ジョン・レノンのカバー(「想像してごらん」や「精神遊び」など)をやり、王道は一通りカバーしている王様がビートルズを取り上げていないのはちょっと意外に思われますが、それというのもビートルズの版権を持つ出版社が英語以外でビートルズのカバーをすることは許さないなんて言っているから。不敬罪でそんな出版社潰してしまいましょう。ちなみに安田謙一さんのライナーノーツが気がきいていて

これまで音盤という形に出来なかったのには、ビートルズの楽曲を管理する出版社からの「英語以外で彼らのカバーをするべからず」という大きなチカラがあったため。「王様に向かって、一体、何様?」、と逆ギレしそうになる気持ちを、まあ、女王様の国だからとグッと抑え<以下略>

許可が下りないので、アルバムタイトルに「外伝」とあるとおり、このアルバムはビートルズがカバーした曲をカバーするという体裁を取っています。でもそれが苦肉の策という感じにはならなくて、むしろそういう形を取ったことでアルバムに奥行きと統一感を与えているのですから、そこはさすが王様。「月光おじさん(Mr. Moonlight)」や「お願い郵便屋さん(Please Mr. Postman)」などはビートルズよりかっこいいですよ…というのはビートルズを貶める意図はなくて、ぼくはビーチボーイズが大好きなのですがそれでもやはり「浜っ子伝説」のいくつかの曲はビーチボーイズのオリジナルを凌駕していると考えているので、やはりこれはさすが王様というべきなのですね。「Twist & Shout」を「ひねってワォ!」、「Money」を「ゼニー」(←この直訳センス、本当に天才的ですよ)と歌うこの直訳の閃きも見逃せません。

ちなみに繰り返しになりますが、安田謙一さんのライナーノーツもアルバムに負けず劣らず素晴らしいものでした。最近の評論家の文章は評論のための評論で音楽の楽しさ・素晴らしさがちっとも伝わってこないものや自己陶酔的なものが多くて本当にうんざりしていたので、こういう文章を読むことができるとちょっと嬉しくなりますね。まあ安田さんが音楽評論家ということになるのかどうなのか、そのあたりは難しいですが。

とまあ、王様のことになると饒舌になるのでいけませんね。