Charles Manson / Lie

Sings

Sings

アルバム『Lie』、とりわけその冒頭を飾る「Look At Your Game Girl」の素晴らしさに疑いの余地はないのですが、それでもこのアルバムについて肯定的に語りづらいのはやはりCharles Mansonだからという他ありません。

「音楽に罪はない」とはよく聞かれる言葉ですが、音楽も罪を引き受けなければならない場合があります。しかし音楽が罪を引き受けるということは、その音楽が抹殺されれば良いということではありません。面倒なものを忌避できるならそれ以上に簡単なことはないのでしょうが、闇に葬れば葬るほど高まるのがカルティズムであって、目をそらすという手段は何の解決にもなりません。抹殺するでもなくカルトアルバムと持ち上げるでもなく、音楽と行動のギャップを直視して考えを止めないことが大切かなあと思うのです。それと、一人で楽しむ分にはただこの音楽を楽しむというのも悪くはないと思うのですが、他人に対してこのアルバムを語るとき、「そんなアルバム聴くなよ」と切り捨てたりあるいは「カルトな名盤」と無邪気に持ち上げたりすることには何かひっかかりがあるのですよね。

『Lie』には不穏な曲も収められていますが(しかし不穏とは言っても時代を考えると別に目立って奇妙というわけではないです)、「Home is Where You're Happy」や「I Once Knew a Man」といった曲からは、ヒッピー・サイケデリア全盛の当時としてはありふれた、しかし非凡な音楽の才能を持った一人の男の姿しか浮かんできません。たたみかけるような構成を持つ「Eyes of a Dreamer」はアルバムのハイライトの一つで、アシッドフォークという観点で評価すると満点に近い出来。何より音楽への真摯な情熱が伝わってくるように思えるのですが、それはただの欺きなのでしょうか。そして「Look At Your Game Girl」があります。ぼくには内省に身を沈めるこの静かな男とファミリーとともに凶暴化した教祖とがどうしても重なってこないのですが、虐げられて過ごした彼の少年時代を考えると彼の分裂気味に見える性格に少しは納得がいったりもします。いずれにしても消え入るように儚い「Look At Your Game Girl」には、同時代に活動していたTim Buckleyの「Song to the Siren」などと比べてもひけを取らない美しさがあります。Mansonがあのような事件を起こしていなければいかほど思い入れの深いアルバムになったのかと時々残念な気もするのですが、そうした思いを抱えつつまた複雑な気持ちでこのアルバムに耳を傾けるのでした。

ちなみにこのCDの売り上げに伴う印税はCharles Mansonには渡らず、被害者の遺族に寄付されています。また、アルバム収録曲のうちいくつかの曲は
http://www.geocities.com/SunsetStrip/Cabaret/4359/lie.html
で聴くこともできます(転送量制限で時間帯によっては聴けないときもあります)。