ハンバートハンバート / 道はつづく

道はつづく

道はつづく

バート・ヤンシュの『The River Sessions』日本盤のライナーノーツ(白石和良氏)を読みながら、英国フォークファンと米国フォーク〜カントリーファンとの断絶を痛感してしまった…と書くと大げさで、イギリスのフォークもアメリカのフォークもそれぞれ楽しんでいるという方がほとんどなのでしょうが。あ、これは白石氏を批判しているのではなくて、むしろ英国フォークへの思い入れたっぷりな彼の文章を読んでいてとても愉快だったのです。英国趣味と米国趣味という点で白石氏とぼくは正反対に位置するわけですが、それを除いた思いこみの強さ、頑固さという点では氏もぼくもまったく違わないわけで、自分で言うのも何ですがこれは全く愛すべき頑固さではないかなと思います。まあどうでもいい話ばかりですが、ぼくは英国のフォークももちろん好きなのですが(以前ショック太郎さん(id:bluemarble)のセレクトに収録されていたDavid Lewisなんか特に)、やっぱり米国的であるに越したことはありません。

ところで『道はつづく』におけるハンバートハンバートの歌は、そうしたフォーク主義者の(我ながら)くだらないなわばり意識を消し去ってしまいます。「1時間」などは英国的といえるかもしれませんし、逆に「おかえりなさい」などは米国的なのかもしれませんが、アルバムについて英国的だとか米国的だとか言うのはどうもそぐわない感じがします。英国と米国が混じり合ったような曲もあれば、どちらとも異なる曲もあるからです。そうした中でアルバムのキーワードを抽出するとすればそれは「童話的」といったところかもしれません。急かされることのない時間がゆっくりと流れ、優しく、暖かく、懐かしく、時に不穏でもある童話の世界がハンバートハンバートの音楽に重なります。

どうも書くことが曖昧になってだめですね。分かっていない人ほど曖昧に書くものなので、すみません。アイリッシュ・フォークの影響もあるのか乾いた陽気さを漂わせる「願い」がアルバムの冒頭を飾る曲。アコースティックギターの繊細な響きと澄んだ歌声が美しく絡む「1時間」も人気が高いのがよく分かる名曲。伝奇的で哀しい「怪物」は一度聴けばいつまでも耳に残りますし、トラディショナルで祝祭的な「合奏は楽しい」は本当に楽しいです。美しい「日が落ちるまで」や控えめなブルーグラス風のアレンジが心地よい「長いこと待っていたんだ」もアルバムのハイライトとして挙げられるでしょう。特に「長いこと待っていたんだ」に反応してしまうのはこれはもうぼくの性で仕方がないものがあります。それに「おかえりなさい」。ゆったりとした歌と演奏に説得力のあるメロディー。もうこれ以上何を望めばいいのか分からない!という素晴らしいアルバムです。