中川五郎 / そしてぼくはひとりになる

そしてぼくはひとりになる

そしてぼくはひとりになる

これは大人のラブソング集です。ロマンチックな飾り付けなどありません。未練も苦悩も後悔も、嫉妬も欲望も何もかもがストレートに歌われています。しかしこのアルバムは絶望的な暗さよりももっと前向きなものを感じさせてくれます。それは、恋に恋したと言えば適当ではないかもしれませんが、「死ぬまで恋する男でいたい」中川さんの本領でもあります。

結論から言うと、『そしてぼくはひとりになる』は本年度のベストアルバムです。「檀一雄」「玉川上水」「クロネコヤマトの宅急便」といった卑近なフレーズが飛び出すたびにどきりとし、シンプルで美しいアレンジに深く引き込まれます。前作と比べて格段にポップの度合いが増しているので、今まで聴いたことがないという人にも向いていると思います。もうこれからは、現在の中川五郎さんの歌にエリック・アンダースンの幻影(あるいは「腰まで泥まみれ」の記憶)を求めることもなくなるでしょう。

ポップと言えばなにより「水に流せば」で、沢知恵さんのコーラスがキラキラ輝く水面のように美しい。「26年目の*****」のように歌詞だけ読めばただただワイセツな曲も、ピアノ(キーボード)中心に美しく仕上げられています。こういう立体的なサウンドは前作『ぼくが死んでこの世を去る日』ではあまり聴かれなかったものです。(ただ誤解のないように書いておくと、ぼくは前作も相当好きですよ)金子マリさんとの掛け合いが楽しい「はなれていれば思いはつのる」、比較的軽快でスマートな「きみがいなけりゃ」、ハンバートハンバートのカバー「おかえりなさい」なんていうのもあります。

きれいに飾り立てられた恋愛や失恋の歌に疲れたら、こういうラブソングを1曲ぜひどうぞ。