西岡恭蔵 『南米旅行』

南米旅行

南米旅行

旅行に行きたい、旅行に行きたいと考えていたら、学生時代の最後もう引っ越しの準備を終えて家を出るその前日に、西岡恭蔵の『ろっかばいまいべいびい』(ジャマイカ・ラブや踊り子ルイーズ)を聴きながら近所の遊歩道を散歩したことを思い出したのでした。

日常の喧噪から離れるという点で言えば、近所の散歩も旅をするのと同じぐらいの開放感があります。思えば多摩川の河川沿いで2年、生田緑地のふもとで1年間暮らしていたわけで、もっといろいろと散策しておけば良かったと後悔することもあるのですが、まあ後悔することがあるくらいがちょうど良いのかもしれません。

『南米旅行』は『ろっかばいまいべいびい』よりもさらにトロピカル風味が増しているアルバムです。しかし、西岡恭蔵の歌はとてもロマンチックでいて無骨という唯一無二の魅力があるのですが、油断するとぐさりと心をえぐり取られるような強烈な郷愁や哀しみをひそませていて、そのせいで時々無性に旅に出たくなったり西岡恭蔵の歌を聴けなくなったりしてしまいます。

波間にたゆたうような心地よいトラックにのせて歌われる「Gypsy Song」。端正な仕上がりの郷愁ソングである「今日はまるで日曜」。スティールパンにのせたトロピカルな「Dominica Holiday」。どれも魅力的な曲ばかりです。

「アフリカの月」は大塚まさじのアルバム『遠い昔僕は・・・』にも収録されています。ありとあらゆる旅への憧憬と客愁が理想的な形で一体となっていて、旅への思いをかき立てるのです。