The Monkees / Instant Replay

Instant Replay

Instant Replay

ピーターの脱退が公にアナウンスされた後も、モンキーズはしばらくの間3人のメンバーで精力的な活動を続けます。この頃になると、モンキーズは、初期に比べると大幅な自由を手に入れていました。『Head』のサウンドトラックのレコーディングセッションとほとんど並行して、おそらくは既に脱退の意思を固めていたであろうピーターを除くメンバーは、それぞれ親交のあるミュージシャンを連れて、新たな作品のレコーディングに勤しみます。この時期には、もはや『Headquarters』を生み出したようなバンドとしてのまとまりは失われており、メンバーが一緒にレコーディングに臨むこともほとんどなくなっていました。

このようにして、『Head』のサウンドトラックの発売から僅か3ヶ月後の1969年2月に、モンキーズ7枚目のオリジナルアルバムとなる『Instant Replay』がリリースされます。タイトルのとおり、このアルバムは「過去の栄光をもう一度」という目論見をもって作られたものです。アルバムには、初期のレコーディングからのアウトテイクと各メンバーの最新の録音とが混交していました。初期録音からのアウトテイクには、ボイス&ハート(「Through The Looking Glass」「Don't Listen To Linda」「Me Without You」「Tear Drop City」)、ゴフィン&キング(「I Won't Be The Same Without Her」「A Man Without A Dream」)、キャロル・ベイヤーとニール・セダカ(「The Girl I Left Behind Me」)らの曲が選ばれており、この時点ではコルジェムズ社もまだ完全にモンキーズを見放してはおらず、あわ良くば再び成功をという意図が感じられます。一方で、マイク、ミッキー、デイヴィーの3人はそれぞれオリジナル曲を提供し、初期の頃とは異なる彩りをアルバムに付け加えています。

果たして『Instant Replay』の目論見は達成されたのでしょうか。アルバムは全米チャートで32位、同時に発売されたシングル(「Tear Drop City」)が34位という結果は、この時期のモンキーズにしては健闘したと言えるかもしれませんし、あるいは華やかな初期の成功に比べると寂しい結果であるというのも事実です。

アルバムチャートの成績は脇に置いても、楽曲の内容自体、初期のアルバムに比べると華やかさに欠ける嫌いはあります。これは、アウトテイク集から構築したアルバムなので当然といえば当然で、シングルとなった「Tear Drop City」なども初期であれば脇を固めるのに丁度良いといった曲であって、決して主役を張るタイプの曲ではありません。「Last Train To Clarksville」の兄弟作のような「Tear Drop City」は、印象的なイントロのギターリフとボイス&ハートらしいキャッチーな節回しが魅力的ですが、突き抜けた明るさに欠けているため地味な印象を残してしまうのが勿体無い気がします。その点、甘やかな「Don't Listen To Linda」や「The Girl I Left Behind Me」、ボーンズ・ハウの洗練されたプロダクションが心地良い「A Man Without A Dream」といったデイヴィーの歌によるバラードには華があります。惜しむらくは、甘いバラードが同じアルバムに3曲というのは少し過剰であることです。そうした中で、唯一アルバムの顔となる可能性を秘めていた曲が「Through The Looking Glass」です。シャッフルビートにのったキャッチーなメロディ、ピアノとドラムを中心に据えた隙のないバッキングトラック、緩急のある展開にミッキーのヴォーカルが映えるアルバム随一のポップ・ナンバーです。トミー・ボイスがシングル化されなかったことを悔やんでいるのも至極当然と言えます。

一方で、オリジナル曲については、レコーディングにおけるメンバー間の断絶が進んだことにより、皮肉にも各メンバーの個性が豊かに反映されることになりました。マイクは、ナッシュヴィル録音の成果の最初のお披露目となったメランコリックな「Don't Wait For Me」と、過去に録音していたフォーク調の「While I Cry」を提供していますが、この時期にマイクが録音していた秀逸な作品群の発表は次作以降に持ち越されました。ミッキーは、シンプルで静謐な「Just A Game」という小品と、ビートルズの『Sgt. Pepper's...』のパロディとなった「Shorty Blackwell」という大作という、趣向の異なる2曲を提供しています。デイヴィーの「You And I」は、アルバムのハイライトの一つと言えます。ビル・チャドウィックとの共作となるこの曲は、ニール・ヤングの強烈なギターをフィーチャーしたもので、一聴の価値があります。

『Instant Replay』は、モンキーズがトリオとなってから最初にリリースしたアルバムとして、チャートではまずまずの成績を上げましたが、しかし人気の退潮は誰の目にも明らかでした。しかし、ショウビジネス出身のミッキーやデイヴィーはもちろんのこと、マイクもこの時点ではまだモンキーズを見限ってはいなかったように思えます。かねてより対立する機会の多かったピーターの脱退によりバンドの主導権をほぼ手中に収めたマイクは、過去のスタイルではなく自らのスタイルでモンキーズを再び引っ張り上げようとします。(あるいは、自らのスタイルをモンキーズをの看板のもとで成功させようとしたのかもしれません。)『Instant Replay』では控えめだったものの、アルバムのリリース後のTV出演やツアーを精力的にこなしたマイクは、やがて「Good Clean Fun」と「Listen To The Band」という(おそらくは)自信作をそれぞれシングルで発表します。そして、おそらくはそのシングルの不振により、モンキーズからの脱退を決断してゆくことになります。