リチャード・ブローティガン『ビッグ・サーの南軍将軍』

ビッグ・サーの南軍将軍 (河出文庫)

ビッグ・サーの南軍将軍 (河出文庫)

南北戦争時代の)南軍将軍を祖先に持つリー・メロンと「わたし」がビッグ・サーで過ごす日々。柱を鋸で切ってしまったために高さが155センチしかなく、誰でも頭をぐわんとぶつけてしまう小屋の周囲で、蛙の鳴く池に鰐を放り込み、トリップして過ごす日常。何か大きな出来事が起こるというわけではなく、あの時代を象徴するような、ありふれているようでどこか奇妙な小さな出来事が蓄積してゆき、具体的な言葉の描写では伝えきれないイメージを伝えてくれます。それらのイメージをうまく溶かしこむ結末も美しい。

そういえばこの作品を読んでいて気付きましたが、「キュウリのようにクール」というのは村上春樹と関連付けられて語られることが多いですが、藤本和子さんのアイデアだったんですね。ぼくは「翻訳夜話」を読んでてっきり村上春樹のアイデアかと思いこんでいて、実際ぼくだけでなくそういう勘違いをしている人は多いみたいですが…(この「ビッグ・サー」、新訳じゃないですよね?)。

アメリカに行ったことのないぼくはもちろん「ビッグ・サー」に行ったことなどないのですが、でも素敵なところだろうなという予感めいたものがあります。ビーチボーイズマイク・ラブが書いた曲に「California 〜 Big Sur」という曲があり、この曲は郷愁を誘う本当に愛すべき曲なのですが、かの曲がそれほどまでに素晴らしいのは、一つにはビッグ・サーという土地の持つ魅力によるものではないか、ビッグ・サーという土地に固有の魅力がマイク・ラブにあれだけの曲を書かせたのではないかとぼくは勝手に思っていて(とは言ってもマイク・ラブも才能のある人なのですが)、そしてその思いこみはあまり外していないような予感があるのです。いつか行きたい。