吉田健一 『時間』

時間 (講談社文芸文庫)

時間 (講談社文芸文庫)

冬の朝が晴れていれば起きて木の枝の枯れ葉が朝日という水のように流れるものに洗われているのを見ているうちに時間がたって行く。どの位の時間がたつかというのでなくてただ確実にたって行くので長いのでも短いのでもなくてそれが時間というものなのである。それをのどかと見るならばのどかなのは春に限らなくて春は寧ろ樹液の匂いのように騒々しい。

そんな書き出しで始まる時間論。読点をあまり使わない濃密な(と言っても重たくはないです)文体が流れる川のように自然で、でもその自然に身をまかせすぎると内容が頭に入ってこなくなるときがあるので、読み進めてはまた戻っての繰り返し。何度も読み返して、流れと内容を同時に味わえるようになれば素敵だろうなと思いますが…。