永井龍男 『秋』

川端康成文学賞全作品〈1〉

川端康成文学賞全作品〈1〉

第二回川端康成文学賞受賞作。第一回の上林暁『ブロンズの首』も悪くはないのですが、好みで言うとこちらの「秋」です。狂言「月見座頭」、花火の夜の不思議な出来事の回想、鎌倉の寺で過ごす夜という短い物語が緩やかに絡み合いながら、自然と秋の気配が、押しつけがましさのかけらもなく小説から匂い立ちます。

第三回受賞作の佐多稲子『時に佇つ』は連作短編集のうちの一編。遠い昔に別れた夫の死をきっかけに、回想も含めてその微妙な距離感や心の動きを的確に描写していて、これも好きな作品。選評を読むと富岡多恵子『動物の葬礼』も読んでみたい気がします。