田中研二 / チャーリー・フロイドのように

チャーリーフロイドのように

チャーリーフロイドのように

映画『日本沈没』がリメイクされて話題になったのが少し前のことで、それ以来時々このアルバムを聴いています。アルバムの冒頭を飾る「日本沈没」は小松左京の同名作品を意識した曲。いや、意識したというのか、そのメッセージは以下のように短いもの。

沈んじまうなら沈むがいいさ
どうせおいらの土地じゃない

CDにはボーナストラックとしてライブバージョンも収められていますが、ライブではこの曲に続いて「日本以外全部沈没*1が歌われます。その詞は

沈んじまうなら沈むがいいさ
どうせおいらの土地じゃない

鋭い風刺をユーモアでつつみこみ、アメリカン・ルーツ音楽にのせてさらりと歌う。すでに『夜だから』という自主盤を出していた林亭の二人が参加していることもあって『夜だから』の兄弟盤という趣もないではないですが、若々しい林亭のアルバムに比べて田中研二のこのアルバムは哀愁が色濃くあります。ユーモラスなのに哀しい。いや、ユーモラスだから哀しいのかもしれません。*2

軽快なラグにのせて消費社会への風刺が歌われる「欲求不満のラグ」の劇画的でコミカルな魅力。バンジョーなどが入り乱れ、トラディショナルな雰囲気が安らげる「臆病な町」、タイトルにも使われた「チャーリー・フロイドのように」というフレーズが出てくるセンチメンタルなフォークナンバー「すすき川の流れるところ」、オールドタイムの魅力を伝える「食卓」などなど。

弾き語りによる繊細な「ごきげんよう」もぼくを強くとらえた曲ですが、アルバムの中でも特に好きなのは「インスタントコーヒーラグ」。Arlo Guthrieの「Alice's Restaurant」から生まれた優しいメロディーにのせて歌われる、文学的で真面目な語りのパートと日常的で素朴なパートの対比が絶妙で、何度も聴き返したくなります

*1:タイトルは筒井康隆の短編より。

*2:マーク・トウェインにも「The secret source of humor is not joy but sorrow(ユーモアの源は喜びではなく哀しみにある)」という言葉がありますね。