Carole King / The Living Room Tour

Living Room Tour (Dig)

Living Room Tour (Dig)

人気の絶頂期を過ぎてヴェテランの域に達したミュージシャンの新作アルバムが、しかもライブアルバムが、これほど鮮烈な印象を残すとは予想していませんでした。これは2004年、62歳になったキャロル・キングのライブ演奏を収めたアルバム。

「歌いたい曲はたくさんあるけど 全部できなくても許してね 私ももう62歳だから」と歌われるオープニング曲「Welcome To My Living Room」はこのライブツアーのために書かれた曲。ライブ、そしてファンに対する真摯な思いにも心打たれるのですが、何より驚かされるのはソングライターそしてパフォーマーとしての彼女の底力。今なおこれほど瑞々しく、心の琴線に触れる曲を書き、歌えるとは、最近のキャロル・キングの作品を聴いていないぼくにはまったく予想外のことでした。

ブリルビルディングの売れっ子ライター時代の「Locomotion」「Take Good Care Of My Baby」「Go Away Little Girl」、シンガーソングライター全盛時代の「It's Too Late」「Sweet Seasons」「Peace In The Valley」、比較的最近の「Love Makes The World」「Loving You Forever」まで、こうして聴くと本当に彼女の音楽はぶれが少ないです。「Love Makes The World」の本来はラップであった部分もうまくメロディーをつけて、完全に自らのものにしています。

シンガーソングライター期の名盤『Tapestry』に収められていた「It's Too Late」や「So Far Away」はナイーブな感性とひたすらに内向きの意識が少しの痛みを伴って聞こえてきたものですが、同じ曲であってもこのライブ演奏からはもはやそのような印象を受けません。今歌われるそれらの曲は大きな包容力を持って、誰に対しても開かれています。たとえば、これはもうぼくの勝手な思い込みかもしれませんが、1970年代のキャロル・キングが「It's Too Late」を歌うとオーディエンスはそれぞれ心の中に自分なりの「It's Too Late」を抱えて、独りでそれを楽しんでいたのではないかなあと考えさせられたりします。それに対して、今はオーディエンスが皆で一つの「It's Too Late」を共有して楽しんでいる雰囲気が感じられます。

声は時にかすれたりしますが、歌の表現力はずっと増しています。表現というのも曖昧ですが、要は歌の持つメッセージがずっと素直に伝わってくるということです。来日公演とか、やってもらいたいですねぇ。こんなライブを目の前でやられたら、感動して泣いてしまいそうです。