キリンジ / DODECAGON

DODECAGON

DODECAGON

キリンジの久々となるフルアルバム。今回はおなじみの冨田恵一プロデュースではなく、セルフプロデュースによる音作り。

しかし冨田恵一抜きで取り組んだアルバムと聞いたときは、正直なところ期待半分不安半分という感じでしたが、杞憂もいいところでしたね。それどころか、キリンジはこのアルバムで、キリンジサウンドの核はそのままにマンネリの壁を軽々と飛び越えています。洗練されたメロディー、隙のないトラック、ざらつきのない歌はどれもすでに確立された感のあるキリンジ色をしているというのに、それでも新鮮で胸の高鳴るこのアルバムは何だ、とこのアルバムを聴きながらついつい興奮してしまいます。キリンジのアルバムはどれも素晴らしいけれどやはり『ペーパードライヴァーズ・ミュージック』と『3』の二枚看板に並ぶアルバムはないよなあと考えていたのですが、このアルバムはその二枚看板に軽々と並んで見えます。しかもこれらの3枚はそれぞれ微妙にカラーが違うんですよね。『ペーパードライヴァーズ・ミュージック』と『3』は陽と陰あるいは昼と夜というイメージでしたが、このアルバムはなんというか昼と夜との垣根を取り払って光沢を増した感じです。

いつもながらに、あるいはいつも以上に冴えている堀込兄弟のソングライティングも勿論素晴らしいのですが、これまで以上に電子音を積極的に導入したことによって楽曲の立体感が増したことも、このアルバムの完成度の高さの大きな要因の一つでしょう。最近の曲に微かにみられたのっぺり感も消え、それによってマンネリを打破した印象を受けます。ピコピコしたアレンジが楽しい「Golden Harvest」にはじまり、ニューウェーブ風味の「ロマンティック街道」を経由して雄大な「ブルーバード」につながるアルバムの流れは素晴らしいの一言。打ち込みサウンドとペダルスティールなどの生音が見事に融け合う「ブルーバード」に象徴されるように、電子音一辺倒というのではなくて、キリンジの歌を生かすための一つの手段としてのエレクトロサウンドという狙い(狙いかどうかは知りませんが)がしっかりとあるので、生音も巧みに使われていますし、変に打ち込みだとかエレクトロだとかいうことを意識せずにすむのも素晴らしいですね。