高石ともや / 東風

東風(紙ジャケット仕様)

東風(紙ジャケット仕様)

一休さん」「ひょっこりひょうたん島」「ムーミン」などテレビ音楽で活躍した宇野誠一郎が全曲を手がけたアルバムです。また、高石ともやといえば日本のフォークの元祖と言うべき人であり、またザ・ ナターシャー・セブンでの活動も知られていますが、(プロテスト中心の)フォーク期からザ・ ナターシャー・セブンへの移行期にこういうアルバムが出ていた、ということに今日初めて気がつきました。

作曲が宇野誠一郎、演奏にポリドール・オーケストラを迎えているところからし高石ともやのアルバムというに異色です。このアルバムの大きな意味でのテーマは「(文化大革命期の)中国」なのですが、これはどちらかというと作詞を担当した鵬風太郎という方の志向ではないか、というのがインナーから見て取れます。

しかし音楽的にはこの『東風』は非常に意欲的で、CD化の際の謳い文句にある「大名盤」というのも決してただの煽り文句ではありません。高石ともやの湿った情感のある歌が、フォークという枠組みを飛び出してポピュラー音楽に近づき、素晴らしい融合を果たしていると思います。「賛成と反対」のような従来の高石ともやのイメージに沿った曲もありますが(しかしSEが多用されたりしてより遊び心があります)、映画音楽のようにドラマチックな展開を見せる「流れる水」、フルートや深みのある音色のギターを配し、英国的重厚さをいかした「青年は午前九時の太陽だ」、宇野誠一郎のユーモアと遊び心にあふれた「張り子の虎」、サイケデリックに感化されたような「きちんと物を考えよう」と非常に豊かな内容です。ロックなアプローチをとった「毛沢東と話してみたい」で「おう おう マオ マオ マオ」とシャウト(?)する格好良さといったら。しかも、このようにヴァラエティに富む楽曲から成るアルバムにもかかわらず、バラバラ感が全くありません。この辺りが高石ともやという歌い手の懐の深さなのです。名盤。