The Beach Boys / That's Why God Made The Radio

ゴッド・メイド・ザ・ラジオ~神の創りしラジオ

ゴッド・メイド・ザ・ラジオ~神の創りしラジオ

ビーチボーイズの久々の新作がようやく到着しました。私がビーチボーイズを聴き始めた頃(1996年)は、ちょうど『Stars and Stripes Vol. 1』が発売されたばかりで、その数年前には『Summer In Paradise』、さらにその数年前には『Still Crusin'』と、ブライアンが参加しているかどうかは別として、ビーチボーイズ名義のアルバムはコンスタントに発表されていたので、まさかそれから16年もアルバムが出ないとは想像もしていませんでした。(『Stars and Stripes Vol. 1』なんか中学生の私には渋すぎて、数回聴いただけで今の今までまったく聴き返していませんが、久々に聴いてみたい気分です。)

ビーチボーイズ名義のアルバムが出ると聞いた時の高揚感。ブライアンのソロアルバムも出るたびに期待しますが、ビーチボーイズ名義となるとまた違った楽しみがあります。バンド名義で出すからには、やはりブライアンばかりが目立つようなものではなく、バンドとしてそれぞれの個性が融け合うようなアルバムがいいなあと、実際に耳にするまでは楽しみ半分不安半分といったところでした。

そしてようやく届いたアルバムは、予想を上回る素晴らしいものでした。帰宅してからもう5回ほど通して聴いていますが、1曲目の「Think About The Days」から2曲目の「That's Why God Made The Radio」までの流れがまず最高です。ブライアンのソロ・アルバム『I Just Wasn't Made for These Times』の「Meant For You」から「This Whole World」への流れと並ぶぐらい完璧です。

そして3曲目の「Isn't It Time」。ブライアンの声と作曲能力はビーチボーイズにとってなくてはならないものですが、それと同じくらいマイク・ラヴの声はビーチボーイズというバンドにとって重要だと私は思うのですが、この曲でついにマイクの少し鼻にかかった声が聴かれます。1曲目と2曲目は、皆の声が「ハーモニー」として融け合っていましたが、この曲ではヴォーカルがブライアン、アル、マイク(ブルースもなんでしょうが、ブルースの声が分からない)と次々と入れ替わる形で、うまく一つのトラックの中に溶け合っています。個人的には、この曲がこのアルバムにおけるビーチボーイズとしてのベストトラックです。

私は昔からマイク・ラヴは嫌いではなかったりします。ブライアンの評価が高まっていく中で悪者にされがちなマイクですが、スタジオでもライブでも、マイクの茶目っ気と陽気さ(『Pet Sounds』のジャケット写真のマイクはすごく神経質そうですけどね。私はメンバーの区別がつかない頃に『Pet Sounds』のジャケを見て、しばらくの間マイクのことをブライアンだと思い込んでいました。)が、ブライアンの神経質な完璧主義や内向性とうまく引き合って、あれだけ素晴らしい初期から『Pet Sounds』までの音楽が生まれたのだと思っています。

ですので、「Daybreak Over The Ocean」という「Getcha Back」の焼き直しのような(もともとは「Getcha Back」より古いマイクのソロ録音ですが)曲は、おそらくビーチボーイズ・ファンの間でも評価がわかれるのではないかと思いますが、私はかなり歓迎です。マイクのソロ録音で言えば、この「Daybreak Over The Ocean(Daybreak)」や『Endless Harmony』にも収録された「Brian's Back」に代表される、ビーチボーイズのイメージを再生産するような曲は結構いい線いってるように思います。初期ビーチボーイズのフォロワーとしてのマイク・ラヴもかなり優秀という感じでしょうか。

そしてもう1曲、本当に素晴らしいトラックが「From There To Back Again」。メロディ、演奏、ハーモニーのすべてにおいて欠点が見当たりません。リード・ヴォーカルはアルだと思うのですが(違ってたらすみません)、凛とした美しさを漂わせていて、この曲にこの歌ありと思わせます。そういえば、昔からブライアンとアルの声が似ていてしばしば聴き分けられないことがありました。ブライアンの歌声は年齢を重ねるにしたがってより無垢なものへと変化していきましたが、ここでのアルの歌声に、違った形で年を重ねたブライアンの歌声を妄想して重ねてしまうところもあります。

最後の「Summer's Gone」はビーチボーイズのラストアルバムの締めくくりとすることを念頭にブライアンが書いていた曲です。共作者にジョン・ボン・ジョビが名を連ねているのがご愛嬌ですが、この辺りは(ボン・ジョビもジョー・トーマスと一緒に仕事をしているので)ブライアンのソロアルバム『Gettin' In Over My Head』のアウトテイクを流用したのではないかと勘ぐりたくなりますね。(実際はどうなのか知りませんが)

ビーチボーイズの久々のアルバムだから、褒める前提でこの感想を書いているというのではなく、本当にこのアルバムを聴かされると褒めるしかないというのが実際のところです。ビーチボーイズとして、今後まだ新作の契約があるかもしれないという話も耳にするので、そちらも楽しみにしつつ、まずは今年の夏のライブを全力で楽しみたいところです。