北杜夫 / 母の影

母の影 (新潮文庫)

母の影 (新潮文庫)

「幽霊」、「どくとるマンボウ」など一連の作品に目を通してから読むとなお楽しめる、著者の自伝的作品。父親である斎藤茂吉や母親の話が中核を占めています。「幽霊」は作者の幼年期の記憶にフィクションを交えて綴られたものですが、「母の影」はほとんど事実が描かれているので、照らし合わせながら読むとなおのこと興味深いです。「幽霊」で印象的だった、母親が立ち去るシーンの種明かしもされていて、それは知るべきものか知るべきでないものか少し判断が付きませんが、そうしたストーリーをもとに「幽霊」などとはまた違った魅力を感じさせてくれます。

デビュー当時の作者の編集を担当した宮脇俊三さんに関する記述も見られて、おっと思います。個人的にほほえましかったのは、あれだけ昆虫が好きな著者が、蜘蛛(昆虫ではないですが)が苦手だということ。ぼくも昆虫は大好きなのですが、蜘蛛は小さい頃からどうにも苦手で、大好きだった昆虫図鑑も蜘蛛のページはつとめて見ないようにしていたので、なかなか共感できます。