臼井隆一郎 / パンとワインを巡り 神話が巡る

パンとワインを巡り 神話が巡る―古代地中海文化の血と肉 (中公新書)

パンとワインを巡り 神話が巡る―古代地中海文化の血と肉 (中公新書)

食というのはいつの時代においても身近にあり、だから食の歴史を学んだり空想をしたりするのは楽しいものです。食事をするときはほとんどいつも、ぼくは自分を過去の人に置き換えてあれこれ空想をふくらませます。天ぷらを食べながら自分は10世紀の庶民だと思いこんでみたりとか、あるいは白米を食べながら白米が御馳走だった時代の人の気持ちを想像してみたりとか。そして分からないことがあると…たとえばイチゴの歴史とか味噌の歴史とか…ネットであれこれ調べ物をします。「○○ 歴史」とかいうキーワードで調べるとたいてい簡単に見つかりますが、『茶の世界史』とか『砂糖の世界史』のように新書にはこの手の本が結構あるので、そういうものを利用することもあります。こういう変な空想癖のルーツをたどると、小学生の頃の読書体験に行き着きます。『太平記』で籠城戦を選んだ楠木正成が湧き水を利用するという記述、謡曲で有名な『鉢の木』での食事風景、星新一の短編でタイトルは忘れましたがタイムマシンで過去に行ってチョコレートなどを売る話(博士が殿さまに捕まって、現代でいちばん贅沢な料理を持ってこいと言われた助手が持ってきた料理が…という話)などが好きでこれらを繰り返し読んだものです。

『パンとワインを巡り 神話が巡る』では旧約聖書ギリシア神話を題材に、食べるために殺す罪や贖いの意識、共同体の共犯性がパンやワインとどう結びついているのかが読み解かれます。学問的に見てその解釈の根拠はどこにあるのかと思わずつっこみを入れてしまう人もいるでしょうが(実際強引に感じる部分もあります)、これぐらい想像の余地が許されるのが新書の良いところかなと思います。まああんまりいい加減でも困りますが。

それでも最初に書いたような事情で、何千年も昔に生きた人もパンやワインを食べ、飲んだのだという当たり前の事実にあらためて感動を覚えたのでした。