The Monkees / 33 1/3 Revolutions Per Monkee

Monkees: Season Two [DVD]

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デビュー以来、一貫してモンキーズの人気を支えてきたのは、彼らをフィーチャーしたテレビシリーズでした。ボイス&ハートやキャロル・キング、ニール・ダイヤモンドなど売れっ子ライターによるキャッチーな音楽がなければテレビシリーズもあれほどの成功を収めることはなかったでしょうが、また、テレビシリーズがなければ、モンキーズの音楽的成功ももう少し控えめなものになっていたことでしょう。

そのような意味で、モンキーズにおいて、テレビシリーズと音楽は相補い、支え合う関係にありましたが、シリーズが放映の第二期に入る頃になると、状況が少しずつ変わり始めます。きっかけは、モンキーズという一大プロジェクトの仕掛人であるドン・カーシュナーの失脚でした。バンドの方針を巡ってメンバー−特にマイクと激しく対立していたカーシュナーがモンキーズに関与しなくなったことにより、バンドの自由度は大幅に増します。第二期のテレビシリーズでも相変わらずのドタバタ喜劇が繰り広げられていましたが、ファッションは優等生的なものからよりメンバーの趣味が反映されたものへと変わり、また番組製作に積極的に関与し始めるなど、変化の兆しは確実に現れていました。そして、そうした状況がやがて『Head』へと繋がっていきます。

『Head』は映画としても、サウンドトラックとして発売されたアルバムとしても、商業的には失敗に終わりましたが、映画の出来に満足していたモンキーズは、『Head』の制作中から既に、同じような試みを映画だけではなくテレビ番組でも行ってみようと考えていました。この時期には、バンドの意向も踏まえてテレビシリーズの第三期は製作されないことが決定していましたが、モンキーズにはまだまだ商品価値があると考えていたNBCテレビの提案もあり、「特番」として3つの番組を製作することが決まっていました。この特番は、第一作目となった『33 1/3 Revolutions Per Monkee』の失敗や、ピーターの脱退とその後のモンキーズ人気の凋落の煽りを受けて二作目以降が製作されることはありませんでしたが、ひとまず『33 1/3 Revolutions Per Monkee』の製作の段階では、この特番は映画『Head』のアイデアをテレビ番組で表現するものとして、メンバー自身の期待も大きかったようです。

さて、『33 1/3 Revolutions Per Monkee』は第二期テレビシリーズ終了後の特別番組の一つとして、1968年11月に撮影されました。準主役級のキャストに、ブライアン・オーガーとジュリー・ドリスコールを迎えたこの番組は、映画『Head』に比べれば、ささやかながらもプロットらしきものがありました。それは博士がモンキーズマインド・コントロールし、ロックンロール・スターに仕立ててゆき、最終的には世界中を洗脳するというものです。このような筋立ての合間合間に、モンキーズの「作られた」イメージが挿入され、自嘲・自虐的にそのイメージが解体されていくという点では、『Head』に相通じるものがあります。

映像からみていくと、『33 1/3 Revolutions Per Monkee』は、よく言えばモンキーズの作られたイメージを解体する野心的な特番で、悪く言えば『Head』の平凡な二番煎じでした。意味を求めることの困難と不条理をメインテーマとし、裏テーマとでも言うべき旧来のモンキーズ像の解体を隠喩的なシーンの重ね合わせによって実現しようとした『Head』に対して、『33 1/3 Revolutions Per Monkee』は「作られたモンキーズ」に対する攻撃性を前面に押し出して、より直接的な切り口によって表現しようとしました。特番では、連れてこられた4人のメンバーが博士の洗脳を受け、Danny & The JuniorsやThe Diamondsなど往年のロックンロール・スターに扮し、世間を熱狂させていく様子が描かれます。やがて世間の熱狂が手に負えなくなり、博士は「本当に必要なのは完全な自由だ」と言い放ち、番組はフィナーレへと向かいます。マイクの手による名曲「Listen To The Band」に乗せたフリーキーでサイケデリックなフィナーレを撮影するために、100人を超えるヒッピーたちが集められたといいます。その場にいる人間が、てんでばらばらに歌い、楽器を弾き、踊り、跳ねるこのフィナーレによって、『33 1/3 Revolutions Per Monkee』は、コントロールされた行動や熱狂が、やがては収拾のつかないほど爆発的な自由への希求へと繋がることを示そうとしました。試み自体は意欲的なものでしたが、しかしモンキーズのメンバーが口をそろえてこの特番に否定的であるように、出来映えはひどく凡庸なものとなりました。従来のドタバタ喜劇の延長作品を期待していたNBCは肩すかしを食らい、最終的にこの特番をアカデミー賞の裏で放映するという決定を下しました。1969年4月に放映された特番は最低の視聴率に終わり、予定されていた2つの特番の計画も中止されてしまいます。

散々な結果となった『33 1/3 Revolutions Per Monkee』ですが、音楽的には聴くべきものが多少はありました。ミッキーとジュリー・ドリスコールとの掛け合いによる「I'm A Believer」のソウルフルなバージョン、良くも悪くもピーターのオリエンタリズムが発揮された「I Prithee (Do Not Ask For Love)」、トーキングスタイルを織り交ぜたマイクのカントリーナンバー「Naked Persimmon」、デイヴィーが歌うミュージカル・タイプの愛らしい「Goldilocks Sometime」などもメンバーの個性が発揮されていて素晴らしいのですが、ハイライトはなんといってもフィナーレの「Listen To The Band」です。ライブ演奏の高揚が伝わる歌と演奏は、スタジオバージョンとは違う「Listen To The Band」の魅力を伝えてくれます。なによりBuddy Milesの歌うパートが最高にかっこいいのです。

『33 1/3 Revolutions Per Monkee』の撮影中、ピーターがモンキーズ脱退の意向を他のメンバーに伝えました。特番のエンディングに使われることとなるトラディショナルソング「California Here It Comes」の録音を終えた後の1968年12月にピーターはモンキーズを離れます。他のメンバーの誰よりも、バンドとしてのまとまりを望んだピーターの脱退で、モンキーズの崩壊は決定的なものとなります。しかしモンキーズはまだしばらく活動を続けていくこととなります。