The Monkees / Head

Head (1968 Film)

Head (1968 Film)

モンキーズの人気を支えていたものは、コミカルでティーン受けするテレビ番組と、一流のスタッフが創り上げるよくできた楽曲でした。しかし、5枚目のアルバム『The Birds, The Bees & The Monkees』が発売される頃には第二期のテレビシリーズが終了し、売り上げも目に見えて下降していきました。もちろんテレビシリーズの放映終了ばかりが問題だったわけではなく、レコード会社・音楽出版社との軋轢やメンバーの積極的なアルバム参加によりかつてほど優秀なスタッフがモンキーズに関わらなくなったということも、売り上げの減少と無関係ではありませんでした。

ドタバタ喜劇を演じることにこれ以上意味を見いだせなくなったモンキーズは、第三期の撮影の提案を断り*1、よりクリエイティヴな長時間番組の制作を決意します。そうした流れで製作されたのが、多くのファンを戸惑わせた映画「Head」でした。(映画版「Head」についてはid:colourless:20051022#p4に書きました)

映画の公開からやや遅れて、『Head』のサウンドトラックがリリースされます*2。映画の挿入歌や科白、効果音を取り混ぜてアルバムにまとめられたサントラ版『Head』は、もう一つの『Head』を創り上げたという点で、高く評価できます。もう一つの『Head』というからには、このサントラはただ映画『Head』のシーンや挿入歌を並べただけのものでも、また映画『Head』を再現したものでもありません。映画を解体し、映画とは似て非なる世界観を再構築したところに、このサウンドトラックの凄みがあります。映画の挿入歌となった6曲はどれも個別に評価しても非常に優れたものですが、しかしアルバムのはじめから終わりまで通して聴いてこそ、という側面は疑いなくあります。この辺りはコーディネートを手がけたジャック・ニコルソンに負うところも大きいでしょう。

しかし、サウンドトラックには一つ問題があり、このことがモンキーズの分裂を決定的なものにします。映画の一つの見せ場でもあった「Circle Sky」のライブシーン。メンバー全員が参加したこの素晴らしく熱気に満ちた演奏はなぜかサウンドトラックには収録されず、やや勢いに欠けるマイク単独のスタジオ録音が代わって採用されたのです。メンバー、特にピーター・トークがこれをマイクの独善とみなす一方で、マイクはむしろ自分はライブバージョンがお気に入りだったとして、スタジオバージョンの採用への関与を否定しています。一般的な意味での“サウンドトラック”や映画の再現にこだわりを持たなかったジャック・ニコルソンが、何らかの意図をもってスタジオバージョンの方がふさわしいと判断し、そちらを採用した可能性もあるのでこの辺の判断はひとまず留保します。

アルバムには非常に優れた曲が集まりました。キャロル・キングが書いた「Porpoise Song」は、ビートルズでたとえると「Strawberry Fields Forever」と似たような意義を持つ曲です。 ゆったりとしたトラックにのって歌われるこのサイケデリックな曲は、今もアルバムで1、2を争う人気曲です。また、同じキャロル・キングの「As We Go Along」も変拍子とダニー・コーチマー、ニール・ヤングライ・クーダーらの演奏が美しい名曲。ピーター・トークは、彼にとって最後となる(再結成は除く)このアルバムに2曲のオリジナル曲を提供し、気を吐いています。オリエンタル・ムード漂う「Can You Dig It」は東洋に関心を寄せていたピーターらしい曲で、さらに強烈なギターが印象に残る「Long Title:Do I Have To Do This All Over Again」*3もあり、どちらも秀逸なトラックです*4。他にもデイヴィーが歌うハリー・ニルソンの「Daddy's Song」もあります。そういえば、ミッキーとデイヴィーは後にニルソンが関わったミュージカル『The Point!』に主役級で出演していますね。

野心的な試みとその成功にも関わらず、アルバムの売り上げは伸びずチャート順位は最高でも45位と振るいませんでした。売り上げ面で不振に終わった前作が第3位なのですから、いかにオリジナル曲が6曲のサウンドトラックとはいえ、人気の凋落は誰の目にも明らかでした。そしてピーター・トークはもう一つ、ある意味では『Head』以上にサイケデリックな(あまり良くない意味で混沌としている)テレビ特番を撮影した後、モンキーズを去ることになります。

やがてカルトな視点からの再評価が高まり、今やモンキーズと言えばまず『Head』が出てくることも珍しくありません。しかし、アルバムの出来が素晴らしいということにはもちろん異論はないのですが、このアルバムがモンキーズの「代表作」とされることにだけは違和感を覚える、ということを付け加えておきます。そういう言い回しにこだわるのは趣味ではないのですが、でもこのアルバムだけは、という感じで。

*1:この決断は、後にミッキーを激しく後悔させます。

*2:鏡面仕上げというのか、ジャケットを銀張りにして鏡のようにして手に取ったものの顔(ヘッド)を映すという、凝った仕掛けにこだわったためです。

*3:この曲にはスティーヴン・スティルスが参加しているのではないかという噂もあります。そのことについては確か、リッチー・フューレイの自叙伝か何かで触れられていたはずです。

*4:しかしピーターはこの時期に本当に良い曲を残しているので、ここでの脱退はもったいない…。